すべてはこの一滴から

Date
2007-04-25 (水)
Category
今日の逸品

今年ではないが、ある冬の日のこと。実家の母が仕込んだ「どぶろく」をペットボトルに詰めて自宅に持ち帰り、冷蔵庫に保管していたことがあった。数日後、そろそろ今夜あたり飲んでみようと冷蔵庫から取り出してみた。【暖房の効いた室内】【密閉容器】【発酵飲料】となれば、察しのいい方なら予想がつくと思うが、そう、それ、たぶん当たり。幸運だったのは流し台の真上で開栓したことぐらいだろうか。
ペットボトルの口からシュワッとかすかな音が聞こえたかと思った瞬間、白い液体は天井めがけ恐ろしい勢いで噴出した。私はといえば噴き上がる“とっておき”を呆然と見ているだけで、左手に持っていたペットボトルは1分もかからず空になった。その大部分は排水溝へと流れ、他は流し台のカウンターに置いてあった観葉植物が呑んだ。
杜氏修業までしたことがあるやじ子は、日本酒が盃からこぼれると杜氏の苦労を思いやって「酒の一滴は血の一滴!」とよく言っていたが、血の一滴どころか、これではまるで大流血事件である。
そういえば能代の喜久水酒造で造っている「一時(いっとき)」は、危険なお酒というサブネームを持っていて開栓する際の注意書きが添えられていたはずだ。飲み手たちも畳にむざむざ呑ませてなるものかと真剣に開ける。こちらは本物の杜氏が、それこそ血をにじませる思いで造った逸品だから当然だろう。
―すべてはこの一滴から―
と、小舎で発行(発酵)した「耳を澄ましてごらん」の裏表紙にも書いてあるように、これを読んでくれている皆様たちの流す一滴の汗、涙、苦労も「血の一滴」としてちゃんと大事に受け止めてくれてる人がいると思うんだな。

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