紀文の房太郎さん

Date
2006-09-23 (土)
Category
今日の逸品

横町の「紀文」で名物の千秋麺を食べると、大女将の房太郎(本名はたしか、房子)さんを思い出す。しばらくお目にかかっていないが、相変わらず凛としているらしいと聞く。「紀文」の千秋麺はあっさりとしたスープと細麺が特徴の中華そばだが、素朴で懐かしい味だとして長年のファンも多い。深夜1時まで営業している店内は、一杯飲んだあとに立ち寄る客でいつも賑わっている。
6~7年前になるが、房太郎さんが芸者をしていた頃からの付き合いだという上司と紀文を訪ねたことがあった。夜の10時頃だったと思うが二階の座敷に顔を出した房太郎さんは三つ指をついて深々と頭を下げ、得意にしていた岡本新内のことなど秋田弁で語る思い出話が尽きなかった。いかにも粋筋で生きてきた女性らしく、艶やかでありながら出過ぎないしなやかさがあった。戦後間もない頃の川反には、こんな床しい芸者衆が大勢いたというが、いま往時の面影が偲ばれる場所はない。
「高層の明るい灯の中から、さんざめく三味太鼓の響きが川を渡り、障子にうつる舞いの手ぶり、足のしなりが影絵になって、柳の垂り枝が行く水にゆらぎ、向う側の土手にさすらう若人達に、ひとしおのやるせなさを増させたことでもあったろう。」とは、「明治より昭和まで」(鷲尾よし子著)の一節。情景が目に浮かぶ。

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