2006年08月

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せんべいと秋田産

Date
2006-08-30 (水)
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今日の逸品

昨日の午後は美女二人の来訪があったが、「姦しい」の文字通り3人の女が集まればとにかく賑やかになる。先に訪ねてきた美女は「ぬれおかき」の手土産付きで、じゃがいも入りと黒糖入りの2種類。外袋に印刷された「湿気ているのではありません。」という注意書きが笑いを誘う。ぬれおかきは秋田の企業が製造特許を取得しているはずで、米どころ秋田ならではの産物だろう。
最近は口にしていないが、東京亀戸の押上せんべい本舗のぬれせんも美味しい。「ちょいぬれ」と「たぷぬれ」があって、味は「ぬれおかき」よりも甘みが少ないが、せんべいなのに引きちぎって食べる面白さがある。一方、その店で創業以来の人気商品は歯が立たないほどの堅焼きせんべいで、バリバリと豪快に音を立てて食べるところが下町らしくて気持ちがいい。
ずいぶん前だが、秋田の米は上等すぎるから堅焼きのせんべいには向いてないんじゃないかと言われたことがあった。褒められたような、けなされたような不思議な気分だったが、言われてみると水分を多く含む米ではバリバリという音は出ないかもしれないと思えた。
二人の美女も秋田ならではの産物なのだが、米と違ってなぜか売れない。こんなところでお茶を挽いてていいのかねえ。

なごりのアイスコーヒー

Date
2006-08-29 (火)
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今日の逸品

夏の間は2日おきにアイスコーヒーを淹れて、中古で購入した冷蔵庫で冷やしていた。この冷蔵庫、3年間は順調に働いてくれていたが、猛暑に見舞われた今夏はどうも“冷え感”が足りないような気がする。一般家庭のように食料品がぎっしり入っているわけではなく、せいぜい戴いた日本酒やチョコレートが並ぶ程度だから使い方に問題はなさそうだ。きっと当たりが悪かったのだろう。
珈琲の薀蓄を語る人は大勢いるが、アイスコーヒーとなると話が別なのは何故だろう。通年で楽しめないからなのか、種類が少ないからなのか、その理由が分からない。
千葉で暮らしていたはるか昔、千葉駅近くに「馬酔木」という喫茶店によく通った。「ASHIBI」というバーが同居していて互いの店を行き来できる造りが面白かったが、どちらも常に混んでいた。
「馬酔木」のアイスコーヒーと「ASHIBI」のビールに使われていたのが保冷性にすぐれた銅製のマグカップで、たった一杯でずいぶん長居をさせてもらったものだ。何を語り合って、どう泣き笑いしたのか忘れてしまったが、あのカップの冷たい感触はよく覚えている。
なごりのアイスコーヒーのはずが、もうグラスの中の氷が解け始めた。

ふる川の蕎麦

Date
2006-08-28 (月)
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今日の逸品

泉の秋田陸運事務所近くに「ふる川」という蕎麦屋がある。昨日、取材を兼ねて知り合いのTさんを訪ねた際、年季の入った構えのその店でお昼をごちそうになった。白くて細い更科のシャッキリとした歯ごたえが心地よく、天ぷらも上出来の揚がり具合である。車の修理工場や住宅が建ち並ぶ小路に、こんなに美味しい蕎麦屋があったとはと驚きながら添えられたミニ丼の米粒一粒も残さず平らげた。
このTさんは趣味と実益を兼ねて数え切れないほど渡英しているので、イギリスの食事が少しは美味しくなったかどうかを訊ねると、郊外のパブなどでは美味しい料理もたまにあるが基本的には不味いとキッパリ断言していた。
「イギリスはおいしい」の著者、林望氏は、あの不味さの根源は食感を度外視しているところにもあると書いていたことを思い出す。何でもぐたぐたに茹でてしまうイギリス人に、この蕎麦を食べさせたらどんな顔をするのだろう。ああ、日本はおいしい。

思いがけない気配り

Date
2006-08-26 (土)
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今日の逸品

今夜は80回目を迎えた大曲の花火競技会らしい。あの会場に居てこその迫力はよく分かっているのだが、一夜だけの増殖した人口による混乱もまたよく分かっていて足がどうにも向かない。それでも今年は晴天に恵まれて絶好の打ち上げ日和だろうから、果敢に会場に出向いた方々は是非とも日本一の花火を楽しんでいただきたい。
大曲駅の二つ手前に奥羽本線の刈和野駅があって、その近くにユメリアという宿泊施設がある。4年ほど前だったろうか、そこに宿をとり、道路の渋滞を避けて列車で花火会場に向かったことがある。臨時に列車は増発されたものの、案の定、都心の満員電車をはるかに上回る混雑ぶりで10分足らずの乗車時間でも辟易した。「お約束」の大会提供花火を見届けてから、再びすし詰めの列車に揺られ疲れきって宿に戻ると、部屋の片隅に夜食が用意されていた。
氷水の入ったポット、温かいお茶のポット、おにぎり、漬物、そして「お疲れ様でした。よろしかったらお召し上がりください。」という宿からのメモを見た時には、思いがけない気遣いに深く感動したものだった。
年々、増え続ける観客に対し、会場となる旧大曲市内では駐車場やトイレなどの課題に頭を悩ませているだろうが、客を迎えるという気持ちだけは忘れないで欲しいと思う。ほんのささやかな気配り、心遣いでも十分に心に残るものなのだ。
ちなみに私たちは翌年もユメリアに宿をとった。

ごちそう生ハム

Date
2006-08-25 (金)
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今日の逸品

昨日、仕事を終えてから近くに住む「やじ子」の自宅を訪ねた。やじ子は雑誌時代の同僚で、県外や海外への取材旅行に同行した際は、迷コンビ「やじ子」「きた子」と称して紙面を荒らしては上司の顰蹙を買ったものであった。
彼女の居間の食卓には真っ赤なトマトと生ハムが彩りよく盛り付けられていた。山王のスペイン料理店「グランヴィア」が主催する生ハム作り教室に参加したのだと言う。そういえば青森に異動したNHKの女性記者も同じ教室にはまって、巨大な生ハムをぶら下げた写真入りの年賀状が毎年届く。グランヴィアは赤坂にも出店して、やはり手作りの生ハムが好評だそうだ。やじ子の生ハムは今年の2月に仕込んだもので食べごろは10月頃らしいが、前日に少しだけ削ってもらって持ち帰ったという。2~3㎜の厚さに切られた生ハムは、肉の旨味が凝縮されていて塩加減も絶妙だった。
「うまーい! 肉だねー!」
「肉でしょー! うまいでしょー!」
いい年をして、こんな貧相な語彙で会話するのも情けないが、本当に美味しいときには実は感嘆符しか出てこないものである。これに赤ワインでもあったら「!」「!」といったところだろうか。

味噌汁は大人の味

Date
2006-08-24 (木)
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今日の逸品

ここ何年も午前2時頃就寝、6時半起床という睡眠サイクルが定着している。雑誌をやっていた頃は月に2、3度の徹夜が加わっていたので、それを思うとずいぶんまともになったと思う。
起きたら最初に煮干で味噌汁のダシをとる。子供の頃は毎朝出される味噌汁が大嫌いだったのに、今は毎朝それがないと始まらないのだから不思議だ。
昨夜のようにボウモアのロックをついつい飲みすぎたり寝不足だったりすると、翌日は無性に塩分が欲しくなる。そういう状態にうってつけなのが味噌汁で、これは大人にならなければ分からない味なのだと勝手に決めつけている。
今朝の具はなめこと豆腐だったが、食べる直前に大根おろしを入れるのが私流。ところがこの代物、なめこのぬめりと大根おろしが蓋の代わりになって、いつまでたっても熱い。真冬ならともかく、この猛暑が続く8月にはあまり相応しくないかもしれない。文句だって言いたくなるだろう。
「熱くて飲めない!」
「遅刻したらこの味噌汁のせい!」
「嫌がらせにちがいない!」
ほらね。冷たい言葉の集中攻撃、ああ、熱い味噌汁が大人の心に沁みる…。

踊るところてん

Date
2006-08-23 (水)
Category
今日の逸品

1年くらい前になるが、あるテレビ番組で寒天ダイエットが紹介されたことがあった。その翌日、近所のスーパーに行くと寒天製品がすべて消えていて唖然としたものだ。マニアックな泥棒の仕業かと思うほど寒天の陳列棚だけがぽっかりと空いていた。もっと以前にも、別の番組で紹介されたきな粉やバナナで同じ現象が起きていたらしい。一つの情報に踊らされる視聴者の姿を、もしも天上から俯瞰したとしたら滑稽で平和な地上として映ったに違いない。もちろん私もいちいち踊っている。
寒天に話を戻せば、同じ天草から作られるところてんで長女は10キロ痩せた。手に入りにくい冬場は休止しての約1年間、毎夕食前に半パックのところてんを飽きずに食べ続けた結果である。もちろん三食しっかり摂っていたし、時にはケーキやピザだってモリモリ食べていた。
「継続は力なり」を目の当たりにして、私も遅ればせながら11ヶ月間休止していたところてんダイエットを再開することにした。今夏のビール消費量増加で、もはや崖っぷちに立たされている。でもこの崖、落ちたら落ちたで基準を緩めた次の崖があるから厄介。

暫時(ざんじ)、厨房に入らず

Date
2006-08-22 (火)
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今日の逸品

こうも厳しい残暑が続くと、火を長々と使うような料理は敬遠したいもので昨夜もやっぱり中華。下ごしらえさえ済ませてしまえば一気に仕上げられるから汗をかく暇もない(年相応に代謝が悪くなったとも言えるが)。
さて、メインはエビと青梗菜の炒め物である。赤とグリーンの彩りを生かしたいので、さっぱりと塩味にすることが多い。この一品だけでも実は調味料を除いて7品目の食材が入っている。酒蒸しにした鶏胸肉を手で裂いてキュウリやクラゲと合わせたサラダを添えれば軽く10品目を超える。
食材の数や色が多ければ勝手に栄養バランスがとれているというのは、16歳から自炊を始めた私の経験則である。
エビの赤、青梗菜やキュウリの緑、クラゲの白、肉の茶…そして青! 仕事を終えて厨房に立つ私の吐息は、常にトホホな青息なのである。

酢豚にパイナップルは罪か

Date
2006-08-21 (月)
Category
今日の逸品

酢豚にパイナップルを入れるべきかと問われたら、納豆に砂糖を入れるか入れないかに比べたら大した問題ではないと答える。生ハムとメロンを引き離すかどうかも同じである。昨夜は豚ロースのブロックがあったのでカリッと揚げて酢豚にしたのだが、パイナップルも迷わず入れた。温かい料理に果物を使う、あるいはオードブルで生ハムなどと一緒に食すことを許せない人は結構いるものだ。好みの問題ではない。「嫌い」ではなく「否定」に近い。
大きな声では言えないが、秋田を代表する郷土料理「きりたんぽ」だって実は否定派がいる。せっかくの鶏鍋に何のために飯を入れて食べなければならないのか、というのが言い分だ。
食を楽しむコツは、育った環境で培われた主義主張をグッと飲み込むことだろう。
とはいえ納豆に砂糖だなんて…あれはねえ、糸は引いても後は引かないな。

VALS(ヴァルス)と秋田こまち

Date
2006-08-20 (日)
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今日の逸品

今朝のご飯は妙である。本来は粘りが強いはずの秋田こまちがパサパサして硬いのだ。昨日の記憶を辿ると、そうだった、炊飯を中3の次女に頼んだのだった。本人に訊ねてみると、家に常備しているVALSで炊いたという。VALSはフランス産の天然発泡水で炊飯には不向きな硬水である。謎が解けて大いに笑えたが、百歩譲って彼女の言うところの「実験」だったとしても一升は多すぎやしないか。まあ、こんなことから日本の水事情や食料自給率にまで興味が飛べば有意義な一件になるのだが、残念ながら鳶が鷹を生むことは稀なのである。

エビマヨと大リーグ養成ギプス

Date
2006-08-19 (土)
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今日の逸品

昨夜は大町の「銀河館」で新しい企画の打ち合わせを兼ねて一杯。近頃、ビールは真夏でもジョッキ一杯がせいぜいになった。以前、通訳を依頼した韓国人の大学生と一緒に飲んだ時、日本ではなぜ「とりあえずビール」と言うのか不思議がっていた。本格的に飲む前の準備体操がビールではないかしらと適当なことを言ったような気がするが、はたして正解かどうかは未だに調べていない。
さて銀河館のメニューに戻るが、とりあえず焼肉サラダ、ザーサイ冷奴、エビマヨを注文。このエビマヨが絶品。背開きにした車エビにたぶん片栗粉をまぶして揚げてから特製ソースで和えてある。エビのアメリカンソースがベースになっているような濃厚な味は、こうして思い出しているだけでも垂涎しきりである。
こんな複雑で美味しい料理を作る店主は今も昔も野球少年。「巨人の星」が放映されていた小学生の頃、兄のエキスパンダーを改造して大リーグ養成ギプスを作ったというから驚いた。だが、同席の同世代男性もまったく同じことをやっていて、バネが戻るときに二の腕の肉が挟まれるため、皮のシートを内側に張りつけたところまでそっくり同じである。
そうか、ものづくりに共通するのは情熱なのだ。
大リーグ養成ギプスと絶品エビマヨは同根なのだと、とりあえず納得。

源氏物語ならぬゴジラの手

Date
2006-08-18 (金)
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今日の逸品

「ふじつぼ」は青森県では高級海産物として珍重されているらしいが、秋田では滅多に出合うものではない。薬品メーカーに勤める五所川原出身のTさんは、帰省したら「ふじつぼ」を持ってきてあげる、とおっしゃった。「ふじつぼ」を知らなかった私は、「ふじつぼ」の響きは源氏物語の「藤壺」となり、さぞかし美しい食べ物だろうと勝手に推測していた。さて数日後…。
「はい、ふじつぼと田酒」
「これが? まるでゴジラの手か、石で出来た蜂の巣みたいね」
「こ、これは珍味中の珍味で高いんだよ」
早速、大将に塩茹でしてもらって食べることに…。
「ゴジラの指先から、ご丁寧に爪まで出てるんですけど…」
「その爪を引っ張って身と味噌を食べるんだ」
カニやエビと同じ甲殻類だそうで、そう思えば味もそんな気がしてくる。
「そうそう、そして汁をすすって、冷えた田酒をクイーッと」
そういえば源氏物語の藤壺は、光源氏と関係して後の冷泉帝を生むんじゃなかったか…ふじつぼと冷えた田酒! 藤壺と冷泉!
うーん…こじつけも甚だしい。
連日36℃前後の秋田では思考回路もこの有様です、ご容赦を。

もしもし…もしもし…

Date
2006-08-17 (木)
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今日の逸品

昨夜の月は単純に三日月と呼んでいいのだろうか。煌々と輝きを放っていて思わず見入ってしまったが、半月には上弦と下弦があるように三日月もきっと決まりごとがあるに違いない。高校時代は地学部にも属していたのだが、もっぱら学校の渡り廊下に寝転がって流星群を観察するのみの活動だったので月は好きだが疎い。隣で寝転がっていた先輩が突然手を握ってきたりして…いや、そんなことより三日月を見て思い出したのはバナナを握った知人の話であった。雑誌社の日常というのは慌しいもので、昼休みさえ電話が途切れない。庶務の○○子ちゃんは大のバナナ好きで、その日もお弁当の脇に大きなバナナを置いて食後を楽しみにしていた。1本の電話を受けた彼女は書類を見るために一度受話器を置いて、再び一生懸命に話しているが相手からの応答がない様子だ。彼女の方を見た私たちは一斉に吹き出した。彼女が受話器と思いこんで耳元に当てているのは、いつの間にか入れ替わったバナナであった。人間、急いては事を仕損じる。一皮むけて滑るようではいけないと、愉快な教訓。

冷やし汁

Date
2006-08-16 (水)
Category
今日の逸品

休み明けで疲労困憊、頭の芯がバテ気味のところへ、親しくしているハーブの専門家から「冷やし汁」の話題が届いた。「冷やし汁」とは、薄い輪切りのキュウリや千切りにした大葉が入った冷たい味噌汁のことである。秋田市以北の方には馴染みがないかもしれないが、県南部では食欲が落ちる夏の食卓にひんぱんに登場していたものだ。たくさんの氷片がキュウリや大葉と先を争うように浮き沈みしていて、目にも涼しい料理だったが、なぜか最近はめったに見られない。まあ、質素な家庭料理であるから外で出合うことはないだろう。
だが大葉やミョウガは和のハーブであると、先のハーブ専門家から聞いたことがある。毎日、「今日の逸品」を読んでくださっているそうだから、ここは是非、「冷やし汁」の効用を説いてもらいたいものだ。
それにしても懐かしい味を思い出すと、それを口にしていた光景も同時によみがえる。母が生きているうちに教えてもらいたいことが山ほどあるのだが、自分の親だけは不死身のような気がしてつい先延ばしにしてしまう。いい年なんだから頭を冷やせと叱られそうです。

スイカと交換日記

Date
2006-08-15 (火)
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今日の逸品

今年も実家の母から羽後町産のスイカが大量に届いた。今さらではあるが羽後町のスイカは大きさも味も申し分ない。子供の頃、祖母が大事に育てていたスイカを従兄たちは持ち去り、問い詰められると決まって私をスイカ泥棒にしていた。孫たちの中で最年少の私なら何をやっても祖母が許してくれることを知っていたからだ。スイカに限ったことではなく花泥棒に野菜泥棒の汚名まで……今おもえばヒドイ話である。
それはともかく、かつて羽後町で農業をしている女性を取材したことがあった。偶然目にしたNHKの番組で長年交換日記を続けている農家の女性たちが紹介されていたのだが、その中の一人が羽後町にいると知ってすぐに連絡をとった。交換日記のメンバーは全国各地で農業を営んでいて、遠くはブラジルのコーヒー豆農家もいた。天候に左右される農業は苦労が絶えることなく、その辛さや時々の喜びを記した一冊の大学ノートは山を越え、海を渡り、それぞれの手から手へと何年も回り続けたのである。
話すほうも聞くほうも涙がこぼれ落ち、7月の暑い日ざしに汗も流れた。とその時、半月形に切られた真っ赤なスイカが差し出された。午前中に畑からとってきたのだと言う。あんなに甘いスイカは過去にも、そしてその後も味わったことがない。涙の塩加減が良かったのか、いや、農家がどれほど苦労して作物を育てているかを知ったからかもしれない。

旧南部藩領に伝わる「けいらん」

Date
2006-08-12 (土)
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今日の逸品

明日は盆の入りということで、すでに帰省して懐かしい味に舌鼓を打っている方もいるのではないだろうか。ふるさとの味といっても地域によってさまざまだろうが、県北部の鹿角周辺には「けいらん」がある。
何年も前になるが、鹿角市長の取材を終えて、「あんとらあ」という観光施設に立ち寄った時のことだ。一角の食堂で名物だという「けいらん」を勧められたのだが、出てきたのは何の変哲もないお吸い物。塗りのお椀の中にはマイタケと里芋のような白くて丸いもの、錦糸玉子、三つ葉が入っている。汁を一口すすると、やっぱり普通の昆布ダシ。
ところが白くて丸いものを噛んだ瞬間、里芋なんかではなく白玉だと気づく。白玉の中には甘い練り餡と刻んだクルミが入っている。やがて口の中では甘い餡とピリッと辛いコショウが融合して舌鼓などは乱打状態である。次々と変化する味に目を白黒させていると、鹿角の人々は言うのである。
「帰省して何が食べたいかと聞けば鹿角出身者は必ずけいらんと答えます」
確かに一度食べたら一生忘れられそうにない、まさに「ふるさとの味」。

茶町が遠い

Date
2006-08-11 (金)
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今日の逸品

フキと薄揚げの炒め煮が好物で自分でもよく作る。いつも時間がないのでキンピラや細切りコンブのように、あっという間に火が通るものばかりになる。こういう常備菜を作りながら時々思い出すのが「茶町が遠い」という言葉である。
秋田市はかつて商人町や職人町などに区分けされた外町(とまち)と、武家が住む内町(うちまち)とで構成されていたらしい。商人町には砂糖などを扱う「茶町」や米を扱う「米町」などがあり、職人町は「大工町」や「鍛冶町」という具合だ。
秋田市内の旧家に嫁いだ知り合いは、煮物の味加減を姑にみてもらうことになっていたらしく、たまに「おや、ちょっと茶町が遠いな」などと言われたそうである。つまり甘み(砂糖)が足りないという意味だが、こんな気の利いた言い方なら注意をされた嫁の方だって角が立つことはないだろう。おそらく姑さんの方も嫁時代に同じように言われたのかもしれない。
「茶町」は昭和40年に現在の大町という名称に変わった。どうにも味気ない、のである。

岩ガキ

Date
2006-08-10 (木)
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今日の逸品

18年ぶりに甲子園に出場した母校は今日の天理戦で善戦及ばず、悲願の一勝は次回に持ち越しとなった。昨夜は象潟の岩ガキに齋彌酒造店の純米吟醸酒「百竈(ひゃくかまど)」という、図らずも由利本荘市周辺の特産が揃ったので、後輩たちの健闘を祈りつつ盃を重ねた。象潟の天然岩ガキはご存知の方も多いだろうが、なめらかなクリーム色の身は13cmほどもあり、レモンをキュッと搾ってほおばった瞬間、口の中に広がる濃厚さは格別である。
一方の「百竈」は、詩人でエッセイストのあゆかわのぼるさんから絶品だと聞かされていて、なるほど華やかな香りとしっかりとした味はコクのある岩ガキに負けてない。カキを食べながら飲むと二日酔いをしないという説に話が及び、薬と毒を一緒に摂ったら多い方が勝つのではないかという一言に一同納得。
さて、翌朝。二日酔いの気配はなかったが、自分自身からふわりと麹の香りがしたのは気のせいか。

糠イワシ

Date
2006-08-09 (水)
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今日の逸品

今日も秋田市の最高気温は35℃が予想されているらしく、いかに夏バテ知らずといえどもゾッとする。低温が続いた梅雨の頃は、あれほど太陽を恋しがっていたのに誠に勝手な話である。まあ、暑いには暑いが生来の食欲は衰えることがなく、若年(未練がましい!)太りに拍車がかかっている。この1、2年でめっぽう太ったのは、たぶん表題の糠イワシのせいもある。
ところで山育ちのせいか魚の食べ方に劣等感を抱いていたのが、「煌」の大将にニシンの塩焼きを美しく平らげる方法を指南していただいてからは猫またぎとまでは言えないけれども人並み程度には進歩した、はず。
さて、青魚の地位を高めたいと『青魚下魚安魚讃歌』(朝日新聞社刊)という本まで出した髙橋治氏は「生か、焼くか、煮るか、捨てるか」を追求して筆を進めていた。「漬ける」は「胡麻漬け」くらいだったか。氏のような青魚食いの達人には遠く及ばないものの、糠を除いてサッと炙ったイワシは骨も軟らかく、ほろ苦い肝と和えるようにして口に運ぶと、まず強烈な塩辛さに目が覚めて次に瀬戸内のままかりではないけれど炊きたてのご飯がいくらでも入るという具合だ。しばらく暑い日が続きそうである。騙されたと思って、明日の朝食に是非。

Date
2006-08-08 (火)
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今日の逸品

今年も市原の友人から特産の梨「幸水」が届いた。今年は梅雨が長引いて日照不足だったらしく、出来を心配するメールも同日に届いたが、なんのなんの、シャリシャリとした食感と強烈な甘さは毎年のことながら期待を全く裏切らなかった。
ソウルの焼肉店ではタレに梨のおろし汁を入れていたが、甘みが増すだけではなく梨に含まれる酵素の働きで肉そのものが柔らかくなるという。うーん、理屈は分かるが、もう少し手頃な値段になったら試してみようと思っているうちに早5年。仁寺洞(インサドン)にあるその店には橋本奈々さんという若女将がいて、聞けば福島から嫁いできたという。食後に出してくれた心遣いのインスタントコーヒーや、韓国では珍しいおしぼりのサービスなど日本流が心地よかった。そういえば辛いけれどもコクのある蟹のケジャンにも、短冊に切った梨が入っていた。
こうして取りとめのない食べ物の話など書いているが、誰からも反応がなかったらいかがなものか。それこそ「梨のつぶて」である。

塩辛

Date
2006-08-07 (月)
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今日の逸品

梅雨明けの少し前くらいからイカづいている。安くて新鮮な夏イカ(スルメイカ)が旬のこの時期、手作りの塩辛がたまらない。子供だった頃、蝉時雨の降る暑い日の昼食に、実家の母はよく手作りの塩辛にナスの千切りを混ぜ込んだものを出していた。義母は淡い色合いの塩辛に大量の鷹の爪を入れて、上品なのに刺激的な味を出す。友人のよしこちゃんが黒光りする夏イカをいそいそと仕込み始めると、ご主人が「近々、あの飲兵衛たちを呼んで宴会する気だな」と目を光らせる。6月に泊まった不老不死温泉(青森県)の塩辛は売り物にしては絶品で、珍しくまとめ買いしたのに一日一瓶のペースで消えた。そろそろ誰かが作ってくれても良さそうな頃合なのだが……。自分で作ればいい? まさか! 老いず死なずの3名人がいるのに?

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